学部は他大学で、修士から酒井・鄭研究室に所属しました。研究室を選ぶきっかけとしては、私の母が看護師だったこともあり、幼いころから医療に携わりたいという気持ちがありました。また、体を動かすことが好きで、学部ではラクロスをしていましたが、練習中に膝や靭帯を損傷しました。今でも雨の日には痛みます。そして実は目も悪いです。こういった体の不具合を自分で治したいという気持ちもあって医療材料を研究している研究室を探しました。
入る前は軟骨や骨のへの応用研究のイメージでしたが、実際はもっと幅広くやわらかい物質の基礎研究でした。研究室に入った当初は基礎よりも応用に興味があったので、研究に対して気持ちがついていかないと感じていました。そんな中、修士1年の時に、酒井先生と一緒に共同研究先の大学に行く機会がありました。その時に先生から「(我々の)基礎が確立されるとすぐに(こうやって)医療に応用できる」と言われ、まず基礎があって次に応用があると基礎研究の大事さに気が付きました。膝の軟骨、靭帯、眼といった自分の体の悪いところが全部ゲルで治せるので、その一翼を担う研究ができてうれしいです。
●研究内容
ひとくちに「強い」と言っても、ダイヤモンドのように固いものを強いと言ったり、圧縮に耐えるものを強いと言ったり、色んな「強い」があります。私の作りたい強いゲルは「引っ張りに強いゲル」です。人工靭帯に利用できるくらいの強度(靭帯と同じように伸びて元に戻る)のゲルを目指しています。
今回ゲルの材料として用いたPVA(polyvinyl alcohol)は生体への適合性が高いため、生体内で安全に使える人工材料として古くから研究されてきました。しかし、一般的なPVAは洗濯糊のようにゆるっとした液体やスライム程度のかたさのため、このままでは人工靭帯として使うことができません。ただ、PVAの構造は水酸基(-OH)を多く持っているため、水素結合を分子間でたくさん作ることができます。その特徴によって、PVAの強度があがり強くなります。さらに強くするために、さまざまな工夫を加えることによって、靭帯のように強いゲルになることが最近、わかってきています。現在はまだ試作段階ですが、ラットの靭帯と比べて遜色ないものができています。将来的には靭帯だけでなく、様々な組織に活用できる材料にしたいと考えています。
写真:靭帯を引張っている様子
「強いゲルを創る」というゴールの方向だけがわかっていて、そこに行く道は自分で作っていくプロセスが楽しくて私の性に合っていると思います。誰もやったことのないことをやるのはワクワクします。
●研究以外でハマっていること
犬! シュナウザー(3才)を飼っています。犬と車で旅行に行きたいです。
●今後の展望
博士修了までのあと1年で、実際に使える生体材料というところまで仕上げたいです。